『私の寝室には死が座っている。
そして私が座るところにはどこにでも死がいる』
……ギルガメシュ叙事詩

 ついに追い詰めた敵を倒したアスタロス。その経験が彼に与えた影響は計り知れなかった。破壊神の眷属である死の司ケールを身に宿し、ただ使役されるだけだったゴーレムは、長きにわたる戦いの果てに自我を得たのだ。いや、正確にはある程度の自我を彼は以前から持っていた。凶暴で粗虐な性格。飽くなき破壊衝動。だがそれらの個性はいずれも、彼の創造主たる破壊神パルギアが、アスタロスを手の内で操るための小道具にすぎなかった。
 脆弱な人間を模倣して造られたという、みずからの創造にまつわる真実を知った時、彼の意識は激しく揺さぶられた。その後、無意識下で事実を否定し続けていた彼は、凶行の果てに力をもってその男をねじ伏せた。その時、彼の内部ですべてが組み変わったのだ。確かなより所を得た精神は、急速に肉体に影響を与えた。
 神の傀儡であった肉体にはひびが走り、その隙間から熱くたぎる内面が覗く。アスタロスの全身を炎が灼き、禍々しく光を放つ……!

 急激な変化による混乱状態が治まるとアスタロスは辺りを見渡した。先程倒したはずの男の姿が見えない。はるか崖下を覗きこみ、彼は敵が急流へと身を投げて逃げ延びたことを悟った。だが、それは今のアスタロスにとっては些細な事だった。アスタロスは己が引き起こしてきた暴行の数々を思い返していたのだ。ソウルエッジを手に入れるため。ソウルエッジの力を復活させるため。それらはすべて、主たる破壊神のために行われてきた。
 主……! アスタロスは心の中が煮え立つのを感じた。……命令されるがままだった。都合のいい駒として扱われてきた。何故、自分は何も感じず、当然のようにそれに従っていたのだ……?
 強烈な怒りが瞬く間にあふれ出し、彼の新たな身体を染めていく。アスタロスの内部に巣食う死の司ケールがその思想に反発して金切り声をあげたが、彼の精神はそれを塗りつぶした。ケールは沈黙し、新たに生まれた猛々しい思考だけがアスタロスを支配する。彼は巨斧を振り上げると、力任せに叩き付けた。地面に亀裂が生じ、大地が悲鳴を上げる。まるで局地的な地震が引き起こされたかのような光景だった。アスタロスはこみ上げる憤怒にまかせて荒れ狂った。……数刻の後、アスタロスが暴走を止めた頃には周囲の地形は激変していた。

 アスタロスは凶行を重ねる。目に入るものをことごとく屠り、奪い尽くす。それはあくまで己のための行動だった。身に宿したソウルエッジの欠片は、彼の血肉となって常に魂を欲していたのだ。アスタロスは貪欲に魂を喰らい続けた。……そしてある時、彼の前に黒い翼が舞い降りる。少女の姿をした邪気の塊はティラと名乗り、アスタロスを誘った。
 少女が囁く。このまま魂を吸収していけば、お前はどこまでも強くなれるだろう。忘れ去られた古き神など、簡単に飲み下せるほどに。だが、そのためにはより強き魂を喰らう必要がある……望むならば、案内しよう。神を狩る力を得るために、最もふさわしい場所がある、と。
 アスタロスは瞬時に、目の前に立つ者がソウルエッジのしもべであることを読み取った。こいつもあの忌まわしい神と同じだ。自分を利用しようとしている。しかし、芳醇な魂を取り込み、みずからを高めることのできる環境は確かに必要だった。アスタロスは先を行く少女の背中を見ながら考えた。いいだろう。だが……。

 かつてヨーロッパを恐怖で包み込んだ蒼騎士。その先鋒として暴れ回った「黒い巨人」アスタロス。彼は数年の時を経て再び魔都オストラインスブルクに入った。あの頃と同じく、アスタロスは表向きナイトメアに従いながら力を簒奪する機会をうかがっている。しかし、彼の目的は以前とは違う。アスタロスは己の「魂」が望むがままに行動しているのだ。

 ……オストラインスブルクに集う魂はすべて俺のものだ! ソウルエッジすら残さず喰らい尽くしてやる!


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