『死の心臓は鉄ででき、その胸のうちには情を知らぬ青銅の心がある。
ひとたび掴まえたら最後、その者を彼はけっして放しはしない』
……ヘシオドス「神統記」

 かつて大海賊として名を馳せ、ソウルエッジを握って魔人となった男。一度は倒れるが、邪剣の欠片の作用により復活を遂げる。強大な力を再び手にするため他の欠片を集めていった彼は、やがてそれらを一つに統合し第二のソウルエッジと呼べるほどにまで育て上げていた。
 邪剣の片割れを取り戻し最強の力を手にする日も近いと思われた矢先、異変が起きた。霊剣ソウルキャリバーの出現によって、ソウルエッジが力を封じられてしまったのだ。邪剣の破片から力を得て再構成された彼の身体もまた、その影響をまぬがれなかった。肉体が崩壊しかねないという窮地に追い込まれたセルバンテス。一刻も早く、霊剣とやらを葬らねばならない……!

 ソウルエッジと同じように魂を喰らい己の力とする術を得ていたセルバンテスは、崩れ行く身体を支えるため今まで以上に多くの魂を求めた。彼に吸収された魂は他界を許されず、不自然な形で現実世界に留まることを余儀なくされる。霊体とでも言うべき形を取って具現化した魂は、そのまま彼に付き従う軍勢となった。そして魂狩りを続けるうち……いつしかセルバンテスは、亡霊船団を率いる冥界の大海賊となっていたのだ。

 しかし、まだ不足であった。ソウルエッジを封じるほどの存在と対決するためには、より強靭にして豊かな魂を喰らう必要があった。セルバンテスは思い出していた。邪剣に操られるままだった折、彼が遺した子種のことを。これまでは歯牙にもかけずにいた存在だったが、しかし……。最も豊潤なる生贄。それは己の血を受け継ぐ者の魂ではないだろうか?
 アイヴィーの居場所を突き止めると、時をおかず強襲をかけるセルバンテス。相手もそれなりの鍛錬を積んでいたようではあったが、もはや人外の領域に達したセルバンテスの前には抵抗も無為であった。みずからの娘を血祭りに上げると、熟れた果実を摘み取るように悠然と魂を喰らい取る。かつて己が植えた種。収穫の時が来たというに過ぎなかった。
 その魂から得られた力は想像以上のものであった。馴染む、と言えばよいのだろうか。たった一つの魂が、これほどに美味であろうとは……。いや増す力を持て余すほどになったセルバンテス。霊剣の存在という唯一の憂いさえ断ってしまえば、もはやこの世に敵はあるまいとさえ思われた。

 だがいよいよ動き出すべき頃合かという時になって、またも異変が訪れる。ある日、世界中に響きわたった邪悪な波動……。その力に彼の携えるソウルエッジが激しく共鳴し、あわや彼の手を離れて飛び出そうかという挙動を見せたのだ。それがなぜなのか、彼には分かっていた。遠く離れた地で邪剣が霊剣のくびきを逃れ、完全復活したのだ……! 彼の手にするソウルエッジもまた戻りたがっている。力を欲する片割れの下へと……。しばしの間、状況を吟味していたセルバンテスだったが、あえて邪剣を手放すことを決める。ソウルエッジがわざわざ一つになってくれるのだ。何者が企んだのかは知らぬが、都合の良いことではないか。

 一直線に宙を飛び去っていく剣を見送りながら、セルバンテスは思案していた。一つところに集結した邪剣とその力を強奪し、いちどきに我が物とする腹づもりである。それはいかにも容易なことと思われた。身体の奥底から純然たる力が湧き出してくる。邪剣の復活に呼応し、彼の肉体もまた力を取り戻しているのだ。
 その証拠に……。セルバンテスは久しく手に取ることのなかった得物、かつて人として生きた年月、彼とともにあった一振りの長剣を取り出す。彼がその柄を握るや否や、剣は瞬く間に邪気を帯び、刀身は禍々しい光を放つ黒刃と変わった。強烈な邪気の影響を受け、瞬時にして魔剣と化したのだ……。
 これほどの邪気。純粋にして圧倒的な力。喰らい散らした数多の魂。もはや我を止められる者などおりはせぬ。セルバンテスは手にした長剣を高く掲げた。その指し示す先は――かの呪われた地、魔都オストラインスブルクである。

 待っておれ、ソウルエッジよ。すべてを手にするのは、この我よ……!


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