『怯懦なる魂は我が物にあらず』 ……エミリー・ブロンテ「怯懦なる魂は我が物にあらず」
この命はいつまで保つのだろう? 彼女はまとわりついて離れない不安を追いやった。その答えは運命の領域に属するものであり、人知の及ぶところではない。それよりも、一歩でも前に進むべきだ。残された時間を無駄にすることはできない。
大鎌の男に焼かれてしまった書から得たわずかな手掛かり。ソウルエッジを追うだけではなく、邪剣に対抗する手段を求めて旅を続けていたアイヴィーは、東の大国でとある風聞を耳にする。邪気に汚染され、混沌に呑まれた寺に伝わっていたとされる武具。噂を追った彼女は、自らを破門された者と称し、寺人の弔いをしながら暮らしている男と出会い、霊剣の存在を教えられた。 だが、それと同時にある問題が浮かび上がってきた。邪剣の血を濃く引く彼女には、相反する存在である霊剣を扱うことはできないのだ。たとえ霊剣を手に入れたとしても、その力を引き出せない限りソウルエッジの破壊は望めない。
旅を中断して館へと戻ったアイヴィーは、その卓越した知識を用い、錬金術の実験を再び始めた。そして何度かの失敗の後、成功の糸口をつかんだかに思われた。そのまま順調に研究が進んでいたならば、アイヴィーは目的を達していたであろう。だが……実験を最後まで続けることはできなかった。招かれざる訪問者――アイヴィーのそれと最も近しい魂の持ち主。今や人ならぬ呪われた父、セルバンテスが現れたのだ。血を分けた娘から魂を奪い、自らの力とするのがその目的だった。
……貴重な文献が収められた本棚は無惨に切り裂かれ、辺りには紙片が散乱していた。重厚な造りの机は激しい戦いの傷跡を残し、ガラス製の器具はほぼ全てが破壊されていた。床はおろか、壁や天井さえも大きく破損し、錬金工房は見る影もなかった。そして彼女もまた、破壊され転がっていた。 彼女の魂はそのほとんどを喰われてしまった。……だが、彼女にはまだ最後の手段が残されていたのだ。それは彼女が守り抜いた切り札。死の接近を感じながら、アイヴィーは自身に処置を施す。彼女が研究していた生命の秘密。霊剣を振るう者を生み出すための秘術。その核となる人工の魂は本来の目的にではなく、彼女の生命を補うために使われた。だが研究は未完成だった……いずれ死は訪れるだろう。
アイヴィーは己の分身たる蛇腹剣を手に取った。剣との絆である魂の大部分を失った彼女ではあったが、剣は応えてくれた。これならば戦える。そして新たに生み出された魂は、生来アイヴィーのものである呪われた魂と混じり合ってなお、純真さを保っていた。今の自分ならば、霊剣を扱うこともできるかもしれない。 彼女はただひとつの目的――ソウルエッジを破壊するという誓いを果たすため、最後の旅路へと踏み出した。
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