『武士道一つにて、他に求むることあるべからず』
……「葉隠」

 御剣は己の心が芯から熱せられるのを感じていた。ついに彼は「敵」を見いだしたのだ。行く先々で彼の耳に入る噂は、数多の惨劇を物語っていた。かの地へ近付くにつれ破壊の爪痕が増えていく。彼の足は自然と速まった。

 鉄砲に打ち勝つため世界を駆けた。鉄砲恐るるに足らずと確信し、さらなる強敵を求めて旅した。だがみずからを練り上げ、研ぎ澄ましてきたが故に、彼は飢え続けていた。命のやりとりをする一瞬の煌めきだけが彼が求めているものであった。だが、そのような相手に巡り会うことは稀だった。希薄な日々が増えていった。
 いかに強力な武器でも、使い手の実力が伴わなければ取るに足らぬ存在にすぎない。彼が戦いの中で刀を振るい続けて掴んだ答えであった。ソウルエッジを握っていたという蒼騎士の噂は途絶えてしまっていた。最強の武器と名高いソウルエッジは、いまや彼にとって興味の対象ですらなかったのだ。
 命の削りあいを渇望しながらも、決して満たされることのないこの現実。冷えきった心に灯火を得ようと、出会った敵を斬り伏せながら、あてどなくさまよい続ける御剣。それは強さのみを求め、鬼と化した男の姿だった。そんな御剣に、暗がりから囁きかける声があった。
「……ソウルエッジの欠片を手にした男に相違ないな? 肆番よ」若い女の声がする。
「ああ、伍番の。……貴様のその力と、邪剣の関係についてすべて吐いてもらおうか、若造」別の影から、しわがれた老人の声が続いた。
 返答の代わりに刀の柄に手をかける御剣。重い空気の中、二手から冷たい殺気が忍び寄る。数合ののち、二人の刺客は崩れ落ちていた。
「……ほど遠い」

 彼は懐にしまい込んでいた包みを取り出した。もう存在すら忘れかけていたのだが、それはソウルエッジの欠片と言われた金属片だった。
「くだらん……」
 御剣は一言呟くと、包みを放り捨てようとした。が、ふと違和感に気づいて包みをほどく。……金属片が妖しく光り輝いていた。思わず欠片を手から取り落とす御剣。彼の目の前で、信じられないことが起きた。光がひときわ強まったかと思うと、金属片は西の空へと飛び去ったのだ。
 ソウルエッジを振るう蒼騎士。その存在が御剣の脳裏をかすめた。

 御剣は西へ向かい、はじめ戯れに噂を探った。もしもかの者が再び現れているのならば、少しはこの渇きを癒してくれるかもしれぬ、と。果たして彼の行く手には、蒼騎士が落とす影が広がっていた。噂は想像以上のものだった。異形の怪物や狂戦士達が集い、近隣を恐怖で染め上げているというのだ。御剣は恐れなどしなかった。むしろそれらの噂話に彼は心躍る戦いを予感していたのだ。
 やがて不吉な空気をまとう魔都がはるか地平に浮かび上がる。なかば狂気じみた光をその刃に宿して、御剣は喜びに震えた。彼は己を突き動かす衝動を理解していた。そう、人間相手では満足できぬのだ……!


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