『千里の目を窮めんと欲し、更に上る一層の楼』 ……王之渙「鸛雀楼に登る」
ソウルエッジとは握る者を狂わせ、周囲の魂を刈り尽くす亡国の剣だった! 石窟寺院に隠棲する老剣聖から聞いた話。それは成美那(ソン・ミナ)にとって衝撃的な事実だった。数年かけて追ってきた「救国の剣」、正しき力と信じて疑わなかったソウルエッジの正体が、その実、まったく正反対の性質を持つ存在だったのだ。初めは驚いたミナだったが、老人の言葉は信用に足るものと思えた。そこには悠久の時をかけて積み重ねてきたかのような説得力があった。 老人にいとまを告げ、石窟寺院をあとにしたミナは、同じ成式道場の門下生……というよりは事実上の弟分である洪潤星(ホン・ユンスン)のことを考える。ユンスンもソウルエッジを探しているはずだった。彼はまだこの事実を知らない。すぐに伝えなければ! だが、ユンスンは何処にいるのだろう? 彼女はすぐに思いつく。ソウルエッジを追っていけば、ユンスンとも落ち合えるに違いない。だが、急がなくては。彼がソウルエッジに辿り着く前に捕まえなくてはならない。
ヨーロッパとアジアを繋ぐ国際都市イスタンブール。東西の文化が出会うこの街で、彼女はユンスンと思しき人物の情報を掴んだ。連れの少女とともに、酒場でエジプトの船乗りを捕まえてはソウルエッジの噂話をせがんでいた青年がいるという。その青年が携えていたという一降りの刀。刀身に心の奥底が映し出されるというふれこみのその刀は、確かにミナがユンスンに手渡した「白露」に違いない。 エジプトから戻ってくる船を調べ回ること数週間、ついにユンスンを発見したミナは、再会を喜び合う間もあらばこそ、すぐさま説教の雨を降らせた。 「ソウルエッジは災いを呼び寄せる邪な力なの。そんなものに頼って国を救えるわけがないじゃない」 だが久々のお小言が少々身に堪えたのだろうか、諾々としてミナの言葉に受け答えつつも、何か言いたげな表情を浮かべていたユンスンは……その晩のうちに雲隠れしてしまったのである。
まるで逃げ足の速い兎のようだとあきれるミナに、ユンスンとともに旅をしてきたという少女、タリムは言った。 「……ユンスンさんは、ああ見えても性根のまっすぐな人です。最後はきっといい方向に決断してくれますよ」 タリムもまたソウルエッジを危険なものと感じ、ユンスンに度々忠告してきたという。だが彼は頑として譲らず、自分の目で確かめたいという姿勢を崩すことはなかったという。エジプトでもソウルエッジの爪痕を目撃し、なにやら考え込んでいたとのことであった。 ユンスンなりに考えてはいるのだな、とミナは少しだけ感心した。道場にいたころは少し腕が立つからといってすぐに調子に乗る、ただの我が儘坊主だったのだが……旅を通じて多少なりとも成長しているようだ。ユンスンはソウルエッジを求めて旅を続けるはず。自分は、その時に彼が間違った判断をしないよう側にいてやるべきだろう。 タリムとお互いが持つ情報を交換したミナ。タリムが幻視したという、ソウルエッジの対極に位置するもう一本の剣……。その話にミナは強く興味を引かれた。もしも本当に存在するならば、それこそが「救国の剣」なのではないだろうか? 過ぎた力はその性質を問わず決して良いものではない、タリムはそう言い添えたが……。ソウルエッジに対抗できるかもしれないその存在は、不要なものと斬り捨ててしまうには惜しいように思えた。
ミナはタリムと別れ、再びユンスンを追う。ソウルエッジとそれに対抗しうる存在について聞き込みを続けながら、彼女は西へ西へと進んだ。残念ながらタリムが言っていた剣に関する噂は皆無だったが、一方の邪剣の噂は多く耳に入ってくる。仕入れた情報を吟味した彼女は、神聖ローマ帝国オストラインスブルクにまたしても現れたという「蒼騎士」に注目する。その手に握られている異形の大剣こそがソウルエッジに違いない。蒼騎士自身がまとう不吉な噂、その剣が持つ破壊力。そして人ならぬ容姿の従者達。いずれも邪剣にふさわしく禍々しいものばかりであった。さらにはオストラインスブルクへと向かう訳ありげな剣士達が何人か目撃されているという……。 邪剣に対抗するための力は手に入らなかったが、もう時間がない。ユンスンは彼女よりも先に進んでいるだろう。もしかしたら、もうオストラインスブルクに入っているのかもしれない。急がなくちゃ……! ミナは走り出した。一刻も早くユンスンと合流しなくては!
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