『ならば立ちあがれ。どんな戦にもおくれをとらぬ霊力もて、君のあえぎに勝て』
……ダンテ「神曲」

 誰かが呼んでいる。しかしその声はよく聞き取れない。彼は目をこらした。何も見えない。……再び語りかけられる。今度ははっきりと聞こえた。
  ――もう、あなたは私達を仲間とは認めてくれないのね?
「ああ、俺はもう誰も巻き込みたくない。俺に関わった者は……皆死神に魅入られる。だから、もう行け。忘れてくれ」
  答えているのは自分の声だった。意識の焦点がぼやけ、背後から別の誰かが声をかけてくる。
  ――俺はお前の道行きを見てきた。お前は今、その罪を悔やみ、そして贖うために生きている。……お前もあの剣の犠牲者ではないのか?
「いや……たとえどんな言葉で取り繕おうとも、俺の罪は許されはしない。それに……父さんを殺めたのは、俺自身なんだ。邪剣とは、関係ない」
  返す言葉とともに、問いかけてきた男の姿はかき消え、あの日の光景が再び目に浮かぶ。風に雲が流され、揚々と掲げた首が月明かりに照らし出される。その表情。見間違えることのない父の面影。熱い鉄の刃を差し込まれたかのように、胸が痛みだす……!

「……っ!」
  ジークフリートは弾かれたように上体を起こした。満月が彼を迎える。夢だった。彼は独りだった。
  彼は鎧の上から胸を押さえた。そこには、大きな傷跡があった。絶境の大聖堂でソウルキャリバーとソウルエッジの間からあふれ出た力の奔流……。その強大な力の流れは、瞬時にして彼の身体を引き裂き、死に至らしめた。邪剣を打ち倒すべく歩んだ罪滅ぼしの旅。敵を間近にしながら志なかばにして倒れる無念。その想いが霊剣を揺り動かしたのだろうか。ソウルエッジを打ち砕くための剣はジークフリートの魂と共鳴した。剣は握り手としてジークフリートを選び、彼の命を繋いだのだった。

 彼は先ほどの夢を思い返した。かつて行動をともにし、別れた者達。そして自分をナイトメアと知りながら、ずっと後を追ってくる者。
  月明かりを浴びて、彼は夜空を見上げた。ジークフリートは心に決めていた。差し伸べられる手をあえて振り払おうと。この身はかつてナイトメアとして恐怖の中心に立っていた。これから戦う相手は、魂喰らう邪なるソウルエッジ。待ち受けるのは大聖堂で体験した破壊の嵐。

 手にしたソウルキャリバーが冷たく光る。その刀身と同じようにあろうと彼は思った。邪剣の存在を打ち消すまでは、決して何者にも心を動かされることはあるまい。かつて家族同然にともに歩んだ者の姿、新たな友と呼べたかもしれない者の姿、そして父親の姿が遠ざかっていく。彼は孤独だった。もうこれ以上誰も傷付けないためには、孤独でいるしかなかった。
  ジークフリートは天球から視線を下ろした。彼の眼前には魔都・オストラインスブルクがその黒い影を横たえている。贖罪の旅は、終わろうとしていた。


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