『先夜、私は永遠を見た。
けがれなく終わりなき大きな光の輪のように
すべてが静かに輝いていた』
……ヘンリー・ヴォーン「世界」

 オストラインスブルクの地を包む邪気の中、影から影へと蠢き滑る男がいた。いつもならば侵入者の前に立ちはだかったであろう凶戦士たちは姿を見せていなかった。代わりに、彼を導くかのように一羽の烏が城を目指す。ほどなく彼の前に呪われた廃城が姿を現した。
 黒い羽ばたきが、彼を城の奥へと誘う。その侵入者――ヴォルドは、人間離れした身のこなしで回廊を進み、ついにソウルエッジの前へと辿り着く。玉座に腰を下ろした蒼騎士と、その手にある邪剣。妖しい空気が玉座の間を支配していた。ヴォルドは剣を奪うべく、身動きひとつしない蒼騎士へと一歩忍び寄る……!

 この世に二つとない最後の秘宝、ソウルエッジをなんとしても我が手に。
 それは今は亡き主、ベルチーの望みだった。武器商人として財を成し、「私の下に存在しないものはない」と豪語したベルチーが生涯手にできなかったただ一つの品。ベルチーが死んでから数十年が過ぎた今も、ヴォルドは遺された願いを叶えるため働いていた。彼は全身全霊をかけて主人に仕え続けてきたのだ。彼はベルチーとその遺産が眠る墓所、世にマネーピットと呼ばれる縦穴から這い出し、邪剣を追い求め各地をさすらった。そしてついに……大いなる望みが叶おうとしている。

「ヴォルドよ……」
 ソウルエッジを手に取ったヴォルドに衝撃が走る。懐かしく心地よい声が、彼に優しく語りかけてきたのだ。それは忘れもしない響き。愛してやまない主の姿が、視力を失って久しいヴォルドの眼に映っていた。思わず彼はその場にひざまずき、額を床につけて、ソウルエッジを捧げるように掲げた。
「よくやった、ヴォルド。嬉しく思うぞ。
 ……だがお前には、まだやらねばならんことがある。分かるな?」
 彼の閉ざされた両の眼から、熱いものが込み上げてくる。……枯れて久しかった涙だった。そうだ。ソウルエッジを守らなければならない。ベルチーが死してなお望み続けた比類なき秘宝。そのかけがえのない品を狙う輩はあとを絶たないのだ。新たな使命を得、ヴォルドは歓喜の声をのどから漏らした。

 すべてを捨て、狂気とも言える盲目的な忠誠のみに生きてきたヴォルド。時を止めた思考故に、何者にも崩されることのなかった心。だが、ソウルエッジは精神の内側からヴォルドの心へと手を伸ばした。強固な忠誠心はそのままに、彼はソウルエッジに魅入られてしまったのだ。

 守る場所を神聖なる墳墓から魔都オストラインスブルクへと替え、ヴォルドは今日も「主の敵」を狩り続ける。
 ソウルエッジの邪気によってイヴィル化したヴォルドだが、その忠義は汚れてはいなかった。彼の心にはソウルエッジなど映ってはいない。彼が見つめるのはただ一人、敬愛してやまぬベルチーだけなのだ。


▲ページTOPへ


【ご利用規約】