


ハンガリー王国の首都ブダ。
悠然と流れるドナウ川のほとりに輝く真珠のような都で、その姉弟は暮らしていた。
畑を耕し、麦を育て、パンを焼く。漠然とした不満はあるもの平凡で幸福な毎日。
一言で言ってしまえば、そんな日々であった。
しかし、突然、平和な日々は終わりを告げる。
バルバロスのハンガリー侵攻、それが全ての始まりだった。
ドナウ川のほとりモハーチでの大敗、それはハンガリー王国の滅亡を意味していた。
バルバロスに率いられ、ブダになだれ込むイヴィル兵。
その姉弟はイヴィルたちが破壊の限りを尽くす街中を逃げ惑った。
しかしついに、そのときは来た。
巨大なイヴィルが、二人の前に立ちはだかったのだ。
イヴィルがその鋭いツメを振り上げたそのとき、姉イロナは身をていして弟を庇い、逃がした。
その弟、少年は逃げた。人々悲鳴がこだまする街中を姉の遺骸を残して。
丘を下り、ようやく街を抜けたあたりで少年は振り向いた。
はるか後方で、街が燃えていた。
ブダの丘の向こうに沈んでいく真っ赤な夕日が少年の目に焼きつく。
そして少年はイスカと名を変え、放浪の旅に出たのである。
途中、人造人間(ホムンクルス)を造りだそうと研究を進める、パラケルススと名乗る錬金術師と出会う。
パラケルススに弟子入りしたイスカは、錬金術の研究に明け暮れるが、ある日、パラケルススの前から忽然と姿を消す。
その1年後、イスカは神聖ローマ帝国皇帝、通称仮面の皇帝の道化となって宮中に出入りするようになっていた。